チャンタ・ヌグワン。
難民生活を送ったのち、「国境なき医師団」で看護婦として働きました。内戦直後の荒れ果てた祖国を見捨てることができず、復興支援に関わったのち、エイズで死にゆく女性たちを看取るホスピスを開きます。その多くは、貧しさのあまり教育が受けられず、売春婦として生計をたてざるを得なかった女性たちでした。
チャンタは、ひとつの決意をします。
「ひとりでも多くの女性を貧困から救いたい」
2001年、カンボジアの最貧困地域のひとつストゥントレンにおいて、チャンタは地元の女性たちと共に、読み書きのできない女性の自立を支援するためのNPO「Stung Treng Women’s Development Center(以下SWDC)」を、立ち上げます。
チャンタが選んだ道は困難に満ちた、しかし真正なものでした。
「カンボジアの伝統的なデザインに新たな息吹をふきこみ世界中に伝えたい。読み書きのできない女性に、職人として技術を身につけてもらうことで、尊厳をもたらし、貧困からも解放したい」
とはいえ、チャンタの挑戦は多くの人に不可能だと言われました。
シルクや絹織りについて、まったくの素人だったからです。しかし、13年間のたゆまない努力により、これまで500人以上の女性とその子供たちの生活を支える事業にまで成長させました。
読み書きのできない女性は、そもそも雇用の対象になりません。たとえば、簡単なマニュアルすら読むことができないからです。行政の支援は一切なく、保険などもありません。教育を受けられなかった女性は、仕事を選ぶ機会もなく、生きる手段そのものもないのです。
読み書きできないということは、たんにスキルの問題だけではありません。たんに生まれた環境が貧しかったというだけで、本人に責任はまったくないにもかかわらず、人よりも劣っているという寂しさや悲しさに一生、苛まれるのです。
とくに、ストゥントレンでは女性の地位が低く、小さいうちから、家族の面倒や仕事を手伝わされ、教育を受ける機会はほとんどありません。教育は女性のためのものではないと考えられており、夫や他の男性家族に従うものとされています。身体的・精神的虐待から逃げる力もありません。
SWDCでは、読み書きできない女性への絹織りトレーニングを通じて仕事ができる喜びだけでなく、識字教育を行い、尊厳、誇りをもたらしています。また、子どもたちが学校に通うために必要なお金や物品の支援、託児所の運営なども行い、安心して仕事に打ちこむことができます。
織り手の、オーナーシップの高さには、目を見張るほど驚かされました。ここで働く女性たちは朝7時から深夜まで仕事をしています。ただお金を稼ぎたいからというだけでなく、その仕事に誇りを持っているからです。
先進国がたちあげたプロジェクトですと、指導者が帰国すると、事業自体が廃れてしまったり、見ていないとやらなかったり、あるいは創業者のやる気だけでひっぱっているだけの団体もあるなかで、彼女たちは「女性の生活を変えたい」という情熱と、希望をもって働いています。
Mon Srey Nou (モン スレイ ノウ) 19才。織り担当。9ヶ月のまだ新人。 |
Phann Sophoin (パン ソポアン) 30才。染色担当。2年1ヶ月。イカット(絣)染めの名人。 |
Nak Sombay (ナク ソンバイ) 32才。プロダクションマネージャー。11年。SWDC創業メンバー。すべての工程をこなせる熟練者。 |
Sota Phalla (ソタ パラ) 20才。染色担当。2年6ヶ月。3人姉妹でSWDCで働いていて、家族を助けている。 |
Touch Chanthy (トー チャンテイ) 27才。染色担当。11年。文字の習得や衛生について学べたことに感謝している。 |
Keo Serun (ケオ サルン) 29才。11年。全工程をサポートしながら、マーチャンダイザーのような役割を担う。SWDC創業メンバー。 |
Chhoeun Makara (チューン マカラ) 25才。織り手。6年。とにかく仕事が大好きな働き者。ファッションデザイナーになるため勉強中。 |
Morn Nang (モン ナン) 25才。蚕の飼育、紡ぎ担当。2年。蚕は大きくなると黄色くなって可愛いそう。食べるのも好きだとか! |
正式名称 | カンボジア王国 |
面積 | 18.1万平方キロメートル(日本の約2分の1弱) |
人口 | 13,400,000人(2008年政府統計) |
首都 | プノンペン |
民族 | カンボジア人(クメール人)が90%とされている。 |
言語 | カンボジア語 |
宗教 | 仏教(一部少数民族はイスラム教) |
(出典:外務省データ)
カンボジアは1975年からはじまった、16年におよぶ内戦で、すべてが破壊されました。6人に1人が殺されたとも言われています。とくにポル・ポトによる支配下で、教師、医者、公務員、芸術家、宗教関係者など自国民を大量に虐殺したという歴史があります。
いまだに多くの人々が農業に従事し、天候に生活を左右されます。人口の30%は1日1ドル以下で暮らし、40%の子どもが深刻な栄養失調状態に苦しめられています。安全な水や基本的な教育、医療へのアクセスは不十分なままです。女性に限っては識字率は40%にものぼります。
特定非営利活動法人ポレポレは、途上国の社会的課題の解決に結びつく製品の流通支援を通じて、日本各地で国際交流の場作りに寄与してます。2013年よりSWDCと協働開始。
特定非営利活動法人ポレポレ/有限会社ラフェリア
〒130-0004 東京都墨田区本所3-15-5 SIOS202
代表理事:高橋邦之 副理事:田房夏波 事務局長:黒坂靖子
写真提供:鈴木竜一朗